朝はなんともなかったのに、夕方になると目の奥が重い、画面の文字がかすんで見える——デスクワークが続く日ほど、そんな感覚が強くなる方は少なくありません。その背景にはそのとき椅子の上でどう座っていたかが関わると指摘されています。本記事では骨盤・背骨・肩甲骨という座り方の土台に焦点をあて、崩れると目の負担がどう変わるのか、自分のクセの見分け方、椅子の上でできる座り直しの手順までを整理します。
- 座り方の土台は「骨盤の傾き」:骨盤が後ろに倒れると腰から背中が丸まり、その延長で頭が前に出る。上半身の形は骨盤から順に決まる
- 崩れると目と画面の「距離」と「角度」が変わる:顔が画面に近づき、うつむいたまま上目づかいで見る形になり、目の使い方に影響すると考えられています
- 「良い姿勢」を固定すると別の緊張が生まれる:背すじを伸ばし続けること自体が持続的な緊張になりやすく、固めるよりこまめに動かすほうが現実的
- 崩れ方にはタイプがある:骨盤後傾型・前のめり型・片寄り型・がんばり型など、自分のクセが分かると見直す方向が決まる
- 長時間同じ姿勢でいること自体が負担:厚生労働省のガイドラインでも作業時間の区切りと姿勢の変更が示されています。急な視力低下・視野の欠けは姿勢の問題と考えず眼科へ
目の疲れと姿勢はどうつながる?「座り方」から見た基礎知識


「姿勢と目の疲れ」は首の角度やモニターの高さの話になりがちです。ただ、首の角度はその下の土台がどうなっているかの結果として決まる面があります。頸椎のカーブは別記事で扱っていますので、ここでは一段下、椅子の座面の上で起きていることに絞ります。
座る姿勢の土台は「坐骨」にある
骨盤の下端には、左右に一つずつ坐骨(ざこつ)という出っ張った骨があります。座るとき、体重は本来この左右の坐骨と太ももの裏側に分散して支えられます。手のひらをお尻の下に敷いて体を左右に揺らすと硬く当たるのが坐骨です。この坐骨が座面のどこにどんな向きで乗っているかで骨盤の傾きが決まり、前に滑って尾骨側に体重が乗ると骨盤は後ろに倒れます。
骨盤が後ろに倒れると、背骨全体が連動して丸まる
骨盤が後ろに倒れる(後傾する)と、つながっている背骨も連動します。腰(腰椎)の自然な前向きのカーブが減り、背中側(胸椎)の丸まりが強くなる。胸が沈み込み、肩は前へ巻き込まれます。それでも視線は画面に向けなければならないので、体は丸まった背中の上で頭だけを起こすという帳尻合わせをする。結果、頭が体の真上ではなく前方に位置します。いわゆる猫背の座り方はここから生まれます。
頭が前に出ると、目と画面の「距離」と「角度」が変わる
ここが、姿勢の話が目の話につながるポイントです。頭が前に出れば顔と画面の距離は縮まります。厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」ではディスプレイは眼から40cm以上離すことが示されていますが、座り方が崩れるとこの距離は知らないうちに短くなります。近くを見るときは目のピント調節の働きがより多く求められると考えられています。
もう一つが角度です。顔がややうつむいたまま正面の画面を見ると、視線は相対的に上向きになります。上を見る形ではまぶたが大きく開きやすく、目の表面が空気にさらされる面積が増えるとされます。作業中はまばたきの回数も減りやすいため、乾きやすい条件がそろうという指摘があります。
肩甲骨が「開いたまま固定」されると動きが失われる
背中が丸まった座り方では、左右の肩甲骨が背骨から離れて外側に開いたまま止まります。本来は腕を使うたびに滑るように動く骨ですが、キーボードとマウスの操作範囲は狭いため開いた位置で数時間ほとんど動かない状況が生まれます。肩甲骨まわりの筋肉は首の付け根から背中に広く付着しており、この「動かない時間」が張り感として自覚されることもあります。
※本記事は姿勢と目の疲れの一般的な関係を整理したもので、特定の症状の診断や治療を目的としたものではありません。感じ方には個人差があります。
座り方のタイプ別セルフチェック【4タイプで見分ける】
崩れ方の方向は人によって違います。まずは下の表で、夕方の自分の座り姿を思い出しながらどのタイプに近いかを確認してみてください。
| タイプ | 椅子の上で起きていること | 目まわりに起きやすい変化 | 見直しの方向 |
|---|---|---|---|
| 骨盤後傾型 | 浅く座り背もたれに寄りかかる。坐骨が前に滑る | 背中が丸まり頭が前へ。視線が上向きになりやすい | 座り直して坐骨を立てる |
| 前のめり型 | 骨盤は立つが体幹ごと前に倒れ、背もたれを使わない | 顔と画面の距離が縮みやすい | 机と椅子の距離を近づける |
| 片寄り型 | 脚を組む・片肘をつく。左右の坐骨の荷重が偏る | 顔が傾き、左右の目と画面の距離が変わる | 画面と体の正面をそろえる |
| がんばり型 | 良い姿勢を意識して腰を反らせ、胸を張り続ける | 首から肩の力みが続き休まりにくい | 力を抜ける中間を探す |


①骨盤後傾型|浅く座って背もたれに預けている
最も多いタイプ。座り始めは深く座っていても、時間が経つとお尻が前に滑り「ずり座り」になります。チェックは座ったまま手をお尻の下に入れ、坐骨が当たるか。骨の感触がはっきりしなければ、骨盤が後ろに倒れている可能性があります。
②前のめり型|背もたれを使わず体ごと画面に近づく
骨盤は立っているものの、股関節から上半身ごと前に倒れているタイプ。意識したいのは体を起こす前に机と椅子の距離を見直すことです。椅子が遠いと、届かせるために体を前に倒すしかありません。我慢して直すより、距離の条件を変えるほうが続きます。
③片寄り型|脚を組む・片肘をつく・体が斜めを向いている
左右どちらかの坐骨に体重が偏っているタイプ。脚を組む、片肘だけを机につく、ノートパソコンが中央からずれている、といった条件で起こります。骨盤も背骨もねじれて顔がわずかに傾き、左右の目から画面までの距離が変わります。体の正面と画面の正面がそろっているかを確認しましょう。
④がんばり型|「良い姿勢」を維持しようと力み続けている
見落とされやすいタイプ。姿勢を気にする方ほど腰を強く反らせて胸を張り、その形を保とうと背中や首に力を入れ続けます。見た目は整っていても筋肉が休まず働き続けている点で、丸まった座り方とは別の負担がかかります。姿勢は一点に固定するより、力が抜ける範囲で時々変えられる状態が現実的です。
※上の分類は座り方のクセを整理するための目安であり、医学的な診断区分ではありません。複数のタイプが混ざることもあります。
椅子の上でできる「座り直し」3ステップ


席を立たずに30秒ほどでできる手順です。一度きれいに座ることがゴールではなく、崩れたら何度でも戻せる手順を体に覚えさせるのが目的。痛みが出る場合は無理に続けないでください。
お尻を一度浮かせ、背もたれに背中が軽く触れる位置まで深く座り直します。そのうえで骨盤を前後にゆっくり数回ゆらす。前に倒すと腰が反り、後ろに倒すと背中が丸まる。その両端のちょうど真ん中で止めた位置が、坐骨が真下を向いた目安です。
厚生労働省のガイドラインでは作業姿勢について「椅子に深く正しく座り、足は足裏の全体が接するように」と示されています。つま先だけが床につく場合は座面が高すぎるサインなので、椅子を下げるかフットレストで調整を。次に肩の力を抜いて肘を体の横に下ろし、肘がおよそ直角でキーボードに手が届くかを確認します。
両肩をすくめて数秒キープしストンと落とす、肘を軽く後ろに引いて左右の肩甲骨を寄せる、を2〜3回。同じガイドラインでは一連続作業時間は1時間以内とし、その間に10〜15分の作業休止と、作業中にも1〜2回の小休止を設けることが示されています。この区切りごとに座り直すとリズムができます。
「良い姿勢」を固定しようとしないほうが続く
座り直すと多くの方は「この形をキープしなければ」と考えます。しかし、理にかなった姿勢でも固め続ければ、それを保つ筋肉は働き続けます。前述の「がんばり型」がその状態です。ガイドラインでも「長時間同じ姿勢にならないよう、ときおり立ち上がるか立ち作業を」と姿勢を変えることが示されています。目指したいのは崩れたら気づいて座り直せること、同じ形で固まらないことです。
「座り続けていること」自体も見直したい
近年は座り方の質だけでなく座っている時間の長さにも注目が集まっています。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、座位や臥位で行われるエネルギー消費1.5メッツ以下のすべての覚醒中の行動を「座位行動」と定義し、デスクワークなどがこれにあたるとしたうえで、成人への推奨事項として「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」ことを示しています。同じ距離の画面を見続ける時間が長ければ目のピント調節に関わる働きも続くため、座位が途切れるタイミングをつくることには意味があります。
整体では座り方に対して何をするのか
骨盤の傾きや左右差が自分では分かりにくい、座り直してもすぐ戻る、という場合の選択肢が整体です。整体は医療行為ではなく疾患の診断や治療を行うものではありませんが、内容としては骨盤まわりや股関節の動きの確認、背中や肩甲骨まわりの筋肉へのアプローチ、座り方のクセへのアドバイスが一般的です。体が動かしやすくなったと感じる方もいますが個人差があり、効果を保証するものではありません。目の症状そのものは、まず眼科で原因を確認してから検討しましょう。
気をつけたいポイントと受診の目安
姿勢のせいと決めつけないことが大前提
日本眼科学会は、視作業を続けることで眼痛・眼のかすみ・まぶしさ・充血などの目の症状や、頭痛・肩こり・吐き気などの全身症状が出現し、休息や睡眠をとっても十分に回復しえない状態を眼精疲労と説明しています。原因は、度の合わない眼鏡、老視初期での無理な近業作業、緑内障・白内障・ドライアイなどの眼疾患、パソコンやスマートフォンの使用、全身疾患、心因性、環境要因など多岐にわたるとされます。つまり姿勢は要因の一つにすぎません。見直しても変わらないときは、姿勢の追求より先に眼科へ——この順番を忘れないでください。
早めに眼科の受診を検討したい症状
次のような症状がある場合は、姿勢のセルフケアで様子を見るのではなく眼科の受診を検討してください。
- 急な視力の低下、見え方が短期間で明らかに変わった
- 視野の一部が欠けている、暗く見える範囲がある
- 片目だけに症状がある(片目をつぶると見え方が大きく違う)
- 物が二重に見える(複視)状態が続く、あるいは突然そうなった
- 目の強い痛み、充血が続く、まぶしさが極端に強い
- 光がチカチカする、黒い点や糸くずのようなものが急に増えた
- 休息や睡眠をとっても目の症状が回復しない状態が続いている
すぐに医療機関へ相談したい症状
以下は目の疲れとは別の原因が疑われるサインです。ためらわずに医療機関(眼科・脳神経外科・救急)へ相談してください。
- これまで経験したことのない激しい頭痛が突然起きた
- 吐き気・嘔吐をともなう頭痛がある
- 突然物が二重に見えるようになった、まぶたが急に下がってきた
- ろれつが回らない、手足のしびれや力が入らない感じがある
- 意識がぼんやりする、めまいで立っていられない
- 目の激しい痛みとともに、頭痛・吐き気・目のかすみが同時に出ている
セルフケアを行うときの注意点
座り直しやストレッチは無理のない範囲で。痛みやしびれが出る場合はすぐ中止してください。腰やお尻に持病がある方、妊娠中の方、整形外科などで治療を受けている方は、自己判断で姿勢を大きく変える前にかかりつけの医療機関に相談を。感じ方の変化には個人差があります。
よくある質問(FAQ)
- 姿勢を直せば、目の疲れはなくなりますか?
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そう言い切れるものではありません。日本眼科学会が示すとおり、目の疲れの背景には眼鏡の度数やドライアイ、目の病気など複数の要因があり、姿勢はその一つです。見直しで楽に感じる方もいますが個人差があり、症状が続く場合は眼科へ。
- 良い姿勢を意識すると、かえって疲れてしまいます
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姿勢を一点に固定しようとすると、その形を保つ筋肉が休まず働き続けます。骨盤を前後にゆらして力が抜ける中間を探し、そこを基準に。ガイドラインでも「ときおり立ち上がるか立ち作業を」と示されており、固定より変化が基本です。
- 椅子が高くて足が床につきません。どうすればいいですか?
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まず座面を下げられるか確認し、下げると机が高すぎて肘が上がる場合はフットレストや厚めの本を足元に置きます。ガイドラインでも「足は足裏の全体が接するように」と示されています。つま先立ちは骨盤が不安定になりやすく、優先して調整を。
- 姿勢矯正グッズやバランスボールは使ったほうがいいですか?
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合う人もいますが必須ではありません。クッションやサポーターは骨盤の位置を保つ補助になる一方、頼りきると自分で座り直す感覚が育ちにくい面も。まずは今の椅子で坐骨・足裏・肘の3点を整えることから始めましょう。
- スタンディングデスクにすれば座り方の問題は関係なくなりますか?
-
立ち姿勢でも同じ形で長時間止まれば負担は生じ、立ちっぱなしは脚のだるさにつながることもあります。ポイントは立つか座るかではなく、同じ姿勢が続かないこと。切り替えられる環境は有利ですが、それだけで足りるものではありません。
まとめ


デスクワーク中の目の疲れを考えるとき、画面の設定や休憩の取り方と同じくらい椅子の上で骨盤がどう傾いているかが土台になります。骨盤が後ろに倒れれば背中が丸まり、頭が前に出て、目と画面の距離や角度が知らないうちに変わっていく。まずは自分が骨盤後傾型・前のめり型・片寄り型・がんばり型のどれに近いかを把握し、坐骨・足裏・肘の3点を目安に座り直す手順を持っておきましょう。そのうえで大切なのが、良い姿勢を固定しようと力み続けないことと、座り続ける時間を区切ることです。休息をとっても回復しない症状や、急な視力低下・視野の欠け・激しい頭痛などがある場合は、姿勢の問題として抱え込まず早めに医療機関へ相談を。感じ方には個人差があります。
参考文献・出典
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(PDF)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」(PDF)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「座位行動」
- 日本眼科学会「眼精疲労(目の疲れ)」
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運営:一般社団法人中小企業集客支援機構 | 最終更新:2026年8月


