夕方になると目の奥がずしりと重くなり、ほぼ同じタイミングで肩が板のように張ってくる——パソコン作業が中心の方から、こうした声がよく聞かれます。本記事では、目の疲れと肩こりが同時に起こりやすい理由を「肩の側」から整理し、僧帽筋や肩甲骨まわり、腕の使い方という視点で連鎖の断ち方を考えます。デスクで座ったままできるセルフケアの手順と、医療機関を受診したほうがよい目安もあわせて紹介します。
- 目と肩は「同じ作業姿勢」でつながっている:画面を見る作業は、目のピント調節と、腕を前に出し続ける肩の支持を同時に要求する
- 肩こりの中心にあるのは僧帽筋:日本整形外科学会も、首の後ろから肩・背中にかけて張る僧帽筋を肩こりの中心的な部位として挙げている
- マウスとキーボードの位置が肩甲骨の位置を決める:腕を前や外に出すほど肩甲骨は外へ開き(外転)、肩まわりは伸ばされたまま力を出し続ける状態になりやすい
- 連鎖は双方向:目の疲れから肩が張ることもあれば、腕の使い方から姿勢が崩れて目が疲れやすくなることもある
- しびれ・急な視力の変化を伴う場合は医療機関へ:セルフケアでよいものと、眼科・脳神経外科・整形外科での確認が必要なものを分けて考える
目の疲れと肩こりが同時に起こりやすいのはなぜ?


日本眼科学会は眼精疲労について、視作業を続けることにより「眼痛・眼のかすみ・まぶしさ・充血などの目の症状や、頭痛・肩こり・吐き気などの全身症状が出現し、休息や睡眠をとっても十分に回復しえない状態」と説明しています(出典:日本眼科学会「眼精疲労」)。肩こりは、目の疲れに伴って現れうる全身症状として、医学的な解説にもともと登場する項目なのです。
一方、厚生労働省の2022(令和4)年国民生活基礎調査では、自覚症状のある人の割合(有訴者率)を症状別にみると、男女とも「腰痛」「肩こり」の順に高いという結果が示されています。目の疲れと肩こりは、同じデスクワークという場面で同時に生まれやすい関係にあります。その理由を姿勢・筋の連鎖・作業内容の3側面から整理します。
①姿勢の側面:画面を見る姿勢は「腕を前に出し続ける姿勢」でもある
画面を見る作業というと、多くの人はまず「目」と「首」を意識します。しかし実際にその姿勢を取ると、両腕は体の前方に浮いた状態で保たれ続けていることに気づきます。腕はテーブルに預けられているようで、実際には肩の筋肉が腕の重さを支え続けているのです。
この「腕を前に出したまま固定する」姿勢が続くと、肩甲骨は背骨から離れる外側へ開いた位置(外転位)に留まりやすくなります。すると胸の前側は縮み、背中側の筋肉は引き伸ばされたまま働き続けます。目線を画面に固定するため頭の位置も変わりにくく、姿勢全体が固まっていきます。なお、頭が前に出る姿勢と頸椎のカーブの関係は別記事で扱っています。
②筋の連鎖の側面:僧帽筋・肩甲挙筋・菱形筋が同時に働き続ける
肩こりを感じる部位の中心にあるのが僧帽筋です。日本整形外科学会の解説でも、首の後ろから肩、背中にかけて張っている僧帽筋が中心として挙げられ、「首から肩・背中にかけて張った、凝った、痛いなどの感じがし、頭痛や吐き気を伴うことがある」と説明されています(出典:日本整形外科学会「肩こり」)。
僧帽筋は上部・中部・下部に分かれ、肩甲骨を引き上げる・内側に寄せる・引き下げるという別々の役割を担います。デスクワークでは上部の「持ち上げる」働きばかりが優位になりやすく、集中時やマウスが遠いときに無意識で肩がすくむのは、僧帽筋上部と肩甲挙筋が働いている状態です。一方で菱形筋や僧帽筋中部・下部は出番が減り、役割が偏っていきます。この偏りが「力を抜いているつもりなのに肩が下りない」感覚につながると考えられています。
解剖学的には、目のまわりから後頭部、肩へと筋のつながりがあることが知られています。後頭下筋群を介した首との連鎖は別記事で整理しているため、本記事では肩甲骨から腕の流れに絞ります。
③作業内容の側面:動きが少ない作業ほど筋肉は休めない
筋肉にとっては「大きく動かす作業」より「同じ姿勢を保ち続ける作業」のほうが休みにくいことがあります。動きのある作業では収縮と弛緩のたびに血流が押し流されますが、デスクワークでは弱い力で長時間縮んだままの状態が続くため、筋内の血流が滞りやすく疲労感が抜けにくいと指摘されています。
さらに見落としやすいのが呼吸です。肩がすくみ、胸の前が縮み、背中が丸まった姿勢では肋骨が広がりにくく、呼吸が浅くなりがちです。それを補って首すじの筋肉(斜角筋など)が呼吸を手伝うようになると、これらも休む時間を失います。目・肩・呼吸が同時に固まるのが、デスクワーク特有の状況です。
※本記事は一般的な情報を整理したもので、特定の症状の診断・治療を目的としたものではありません。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
目が先か、肩が先か?連鎖は双方向に起こる


「目から来る肩こり」という言い方をよく耳にしますが、連鎖は一方通行ではありません。目→肩と肩→目、どちらの向きからも始まりうると考えられています。
目から始まるパターン
見えにくさを感じると、人は無意識に画面へ顔を近づけます。すると頭が前に出て、その重さを支える首と肩の負担が増します。眼鏡の度数が合っていない、老視で手元にピントを合わせづらいといった条件が重なると、この動作が一日中繰り返されます。見る条件が整っていないことが、結果として肩の姿勢を変えてしまうパターンです。
肩から始まるパターン
逆に、腕の使い方から始まることもあります。マウスが体から離れていると腕を前方かつ外側へ伸ばした姿勢が続き、肩甲骨が外へ引かれます。背中が丸まると視線は下向きになり、それを補って顎を上げ画面を見上げる形に。距離や角度が安定せず、目のピント調節にも余分な負担がかかります。肩まわりの位置が変わることで、見る条件のほうが崩れる順序です。
肩こりのセルフチェック
まずは、自分の肩まわりの状態を確かめてみましょう。道具を使わず座ったままできる確認です。
- 肩の高さ:正面を向いたとき、左右の肩の高さに差がないか
- 肩をすくめて落とす:肩を上げてから力を抜いたとき、すとんと下りるか、途中で止まる感じがあるか
- 腕を上げる:両腕を耳の横までまっすぐ上げられるか。途中で肩がすくんでしまわないか
- 肩甲骨を寄せる:胸を張って肩甲骨を背骨側へ寄せたとき、どのくらい動く感覚があるか
- 指先の感覚:肩や腕にしびれ、力の入りにくさがないか(ある場合はセルフケアの前に医療機関へ)
目由来か、腕・肩の使い方由来かを見分ける手がかり
どちらの要素が強いかを完全に切り分けることはできませんが、日常の中で気づける違いはあります。下表は傾向を考えるための手がかりです。
| 確認する場面 | 目の使いすぎが関わっていそうなとき | 腕・肩の使い方が関わっていそうなとき |
|---|---|---|
| 強くなるタイミング | 細かい文字や表を見た日、画面時間が長かった日に強い | 入力量やマウス操作が多かった日、荷物を持った日に強い |
| 同時に出やすい感覚 | 目の奥の重さ、まぶしさ、かすみ、こめかみの張り | 腕のだるさ、手首や前腕の張り、肩甲骨の間の重さ |
| 左右差 | 左右差は出にくいことが多い | マウス側に偏るなど左右差が出やすい |
| 画面から離れたとき | 遠くを見て休むと、肩の張りも少し楽に感じることがある | 目を閉じても肩の張りは残り、腕を下ろすと楽に感じる |
| 見る条件・環境 | 眼鏡・コンタクトの度数を変えた前後で感じ方が変わる | 机や椅子の高さ、マウス位置を変えると感じ方が変わる |
※上表は一般的な傾向を整理したもので、医学的な診断基準ではありません。感じ方には個人差があり、両方の要素が重なっていることも珍しくありません。
デスクで座ったままできる肩甲骨まわりの3ステップ


椅子に座ったまま行える肩甲骨まわりの動かし方を3ステップで紹介します。厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」でも、小休止や作業休止中のストレッチが肩の疲れを防ぐことが示されています。反動をつけず、痛みが出ない範囲で行ってください(個人差があります)。
椅子に深く座り、息を吸いながら両肩を耳に近づけるようにゆっくり持ち上げます。5秒保ち、息を吐きながら一気に力を抜いて肩を落とす。これを3回。作業中の肩は「すくんだまま」になっていることが多いため、いったん強く縮めてから抜くと下ろす感覚をつかみやすくなります。
両肘を軽く曲げて体の横に置き、手のひらを上へ。そのまま肘を後ろに引いて左右の肩甲骨を背骨側へ寄せ、同時に少し下へ滑らせるイメージで5秒キープ。ゆっくり戻して5回。作業中に使われにくい僧帽筋中部・下部と菱形筋を動かし、外へ開いた肩甲骨の位置を確認する目的です。肩がすくまないよう注意します。
両手を前で組んで腕を伸ばし、背中を軽く丸めて肩甲骨の間を広げます。息を大きく吸って背中側をふくらませ、吐きながら10秒キープ。2〜3回。寄せる動きと広げる動きを両方向おこなうことと、浅くなりがちな呼吸を深くすることがねらいです。最後に立ち上がって遠くを見ながら数歩歩くと、目と肩を同時に休ませる時間になります。
マウス・キーボードの位置を見直す
同じくらい大切なのが、そもそも肩がすくみにくい環境をつくることです。前述のガイドラインでは、機器選びのポイントとして「動かせるキーボードやマウス」が挙げられ、その目的が肩こりの防止にあると明記されています。腕の位置に合わせて入力機器を動かせること自体が前提とされているわけです。
- マウスは体の近くに:肘が体の横から離れない位置に置く。遠いと腕を前へ出し続けることになる
- キーボードは体の正面・肩幅の範囲に:テンキー付きモデルは中心がずれやすいので体の向きと確認する
- 肘の角度は90度前後を目安に:机が高すぎると肩が上がり、低すぎると背中が丸まる
- 前腕を支える場所をつくる:机やアームレストに腕の重さを預けられると、支える肩の仕事が減る
- ノートパソコン中心なら外付け機器を検討:ガイドラインでも長時間作業では外付けキーボード等での疲労予防が示されている
なお、ディスプレイの高さや距離(目から40cm以上、画面の上端は目の高さまで等)の調整は、姿勢との関係を含めて別記事で詳しく扱っています。
作業時間の区切り方
環境を整えても、同じ姿勢が長く続けば負担は積み重なります。ガイドラインでは1時間以内をひとつのサイクルとし、その間に10〜15分の作業休止時間を設け、サイクル中にも1〜2回の小休止を取ることが示され、ときおり立ち上がることも勧められています。「疲れてから休む」のではなく疲れる前に区切る発想に切り替えるだけでも、夕方の張り方が変わったと感じる方もいます(個人差があります)。
気をつけたいポイントと受診の目安
セルフケアで戻らないときの考え方
ストレッチ直後は軽く感じるのに、翌日にはまた同じ状態に戻っている——珍しいことではありません。セルフケアはその場の筋肉の状態を変えられても、一日8時間続く作業環境や姿勢のクセそのものを置き換えるものではないからです。同じ状態が数週間続く場合は、ケアの回数を増やすより先に次の順序で見直しましょう。
- ①見る条件:眼鏡・コンタクトの度数が今の生活に合っているかを眼科で確認する
- ②作業環境:マウス位置・机の高さ・椅子の座面を実際に測って調整する
- ③時間の区切り:休止時間をスケジュールに組み込み、意識ではなく仕組みで確保する
- ④体の状態:しびれや痛みを伴う場合、日常生活に支障がある場合は医療機関で相談する
なお、整体やマッサージなどのサービスは医療行為ではなく、症状を診断したり治療したりするものではありません。どのような選択肢があり、どんな人に向くのかは別記事で整理しています。
こんな症状があるときは医療機関へ
「目の疲れ」「肩こり」という言葉で片づけてはいけない症状もあります。日本整形外科学会は、肩こりの背景に頚椎の疾患、頭蓋内の疾患、高血圧症、眼の疾患、耳鼻咽喉の疾患などが隠れている場合があると解説しています。次のような症状がある場合は、セルフケアを続けず早めに受診してください。
- 急な視力の低下、視野の一部が欠ける/片目だけに症状が出る/突然ものが二重に見える(複視)、視界に光やゴミのようなものが急に増えた → 眼科
- 今までに経験のない激しい頭痛/吐き気を伴う頭痛、突然始まった頭痛、発熱や意識のもうろうを伴う → 脳神経外科・救急外来
- 手や指のしびれ、力が入りにくい、箸やペンが使いにくい、腕から手へ放散する痛みがある → 整形外科
- ろれつが回らない、片側の手足が動かしにくい、顔の片側が下がる → ただちに救急要請を
- 安静時も続く強い肩の痛み、発熱や体重減少を伴う肩こり、夜間に痛みで目が覚める → 医療機関で相談
特に片目だけの症状や急激な変化は、目そのものに原因がある可能性を確認する必要があります。「肩こりのせいだろう」と自己判断で様子を見ることは避けましょう。
よくある質問(FAQ)
- 目の疲れを取れば、肩こりもなくなりますか?
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そう単純ではありません。両者は同じデスクワークから同時に生まれていることが多く、片方だけに対応しても状況が変わりにくい場合があります。見る条件(度数・画面の位置)と腕・肩の使い方の両方を見直すのが現実的です(個人差があります)。
- 肩こりがひどいのは、目が悪いせいでしょうか?
-
目の条件が関わっている可能性はありますが、それだけとは限りません。日本整形外科学会は肩こりの要因として、姿勢の良くない状態(猫背・前かがみ)、運動不足、精神的なストレス、長時間の同一姿勢、冷房などを挙げています。眼科での確認と並行して作業環境も見直しましょう。
- ストレッチはどのくらいの頻度で行えばよいですか?
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厚生労働省の情報機器作業ガイドラインでは、1時間以内を作業サイクルとし、その間に10〜15分の作業休止、サイクル中にも1〜2回の小休止を取ることが示されています。この小休止で1〜2分の短いストレッチを挟むのが現実的で、まとめて行うよりこまめに区切るほうが続けやすいでしょう。
- マウスを使う側の肩だけが張るのはなぜですか?
-
マウス操作では腕を前方かつ外側へ出した姿勢が片側だけ長く続くため、その側の肩甲骨まわりに負担が偏りやすいと考えられています。マウスを体の近くに置く、前腕を机に預ける、ときどき手を離して腕を下ろすといった工夫で感じ方が変わることがあります。しびれを伴う場合は医療機関にご相談ください。
- 肩がこると頭痛や吐き気も出ます。放っておいて大丈夫でしょうか?
-
日本整形外科学会の解説でも、肩こりに頭痛や吐き気を伴うことがあるとされています。ただし、今までに経験のない激しい頭痛や突然始まった頭痛、意識や手足の動きに変化がある場合は別の原因が隠れている可能性があります。様子を見ずに脳神経外科や救急外来を受診してください。
まとめ


目の疲れと肩こりが同時に起こりやすいのは、画面を見る作業が「目のピント調節」と「腕を前に出し続ける肩の支持」を同時に要求するからです。肩の側から見ると、肩甲骨が外へ開いた位置に固定され、僧帽筋上部ばかりが働き、呼吸まで浅くなる——この積み重ねが夕方の張りにつながります。連鎖は目からも肩からも始まりうるため、両方に目を向けるのが近道です。
デスクでできることは、肩をすくめて落とす・肩甲骨を寄せて下げる・背中を広げて深く呼吸するという3ステップと、マウスやキーボードを体の近くに置き直すこと、そして1時間以内で作業を区切る習慣です。それでも状態が続く場合や、しびれ・急な視力の変化・激しい頭痛を伴う場合は、セルフケアを続けずに医療機関で確認してください。無理のない範囲で始めていきましょう。
参考文献・出典
- 公益社団法人 日本眼科学会「眼精疲労(目の疲れ)」
- 公益社団法人 日本整形外科学会「肩こり」
- 厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(PDF)
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
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運営:一般社団法人中小企業集客支援機構 | 最終更新:2026年8月


