「創業したばかりで実績がひとつもない。ホームページに載せる事例も、お客様の声もない。商談では『実績はありますか?』と聞かれるたびに言葉に詰まる」——創業期の経営者から、当機構に最も多く寄せられる悩みのひとつです。実績がないから受注できず、受注できないから実績が作れない。この「実績ゼロのループ」に、多くのスタートアップ・創業期の事業者が苦しんでいます。
結論からお伝えすると、実績ゼロでも信頼は設計できます。信頼の材料は実績だけではなく、経歴・プロセス公開・理念・第三者の推薦など複数あり、実績はそのひとつにすぎないからです。さらに創業期には、大手には決して使えない「挑戦者の見せ方」という武器があります。この記事では、実績がない時期に信頼を作る5つの材料、共感される語り方、やってはいけない誇張のNGライン、そして最初の3件を実績化する具体手順まで、順番に解説します。
- 実績ゼロでも信頼される仕組み——信頼を構成する2つの要素
- 実績の代わりになる5つの信頼材料と使い方【一覧表】
- 創業期にしか使えない「挑戦者の語り方」の型
- 景表法・経歴詐称に触れないためのNG表現と言い換え
- 最初の3件を実績化する5ステップと数値シミュレーション
なぜ実績ゼロでも信頼されるのか?——信頼の正体を分解する
まず前提を整理します。顧客が発注前に確かめたい「信頼」は、大きく2つの要素に分解できます。「能力への信頼(この人はできるのか)」と「誠実さへの信頼(この人は裏切らないか)」です。実績はこのうち「能力への信頼」を証明する手段のひとつにすぎません。つまり、実績以外の方法で能力を証明し、誠実さを別の材料で示せれば、信頼の総量は実績豊富な競合に近づけることができます。
能力への信頼
実績・経歴・専門性・プロセスの質で証明。「この人に頼めば成果が出そうだ」と思わせる要素。
誠実さへの信頼
理念・本気度・第三者の推薦・誠実な情報開示で証明。「この人は途中で投げ出さない」と思わせる要素。
発注者が本当に恐れているのは「失敗」である
発注者が実績を確認するのは、実績そのものが欲しいからではなく、「発注に失敗したくない」からです。特にBtoBでは、発注担当者は社内への説明責任を負っています。裏を返せば、「失敗しなさそうだ」と思える材料が揃えば、実績の有無は絶対条件ではなくなるということです。実際、価格・スピード・熱意・小回りの利きやすさを理由に、あえて創業期の会社を選ぶ発注者は一定数存在します。狙うべきは「実績で選ぶ層」ではなく、「実績以外の判断材料を重視する層」です。
実績の代わりになる5つの信頼材料【一覧表】
実績ゼロの時期に信頼を作る材料は、次の5つに整理できます。それぞれ効きやすい相手と準備コストが異なるため、まず一覧で全体像を掴んでください。
| 信頼材料 | 具体例 | 効きやすい相手 | 準備コスト |
|---|---|---|---|
| ①経歴・専門性 | 前職での担当業務・実務年数・資格・登壇/執筆歴 | 専門性を重視するBtoB顧客 | 低(棚卸しのみ) |
| ②プロセスの公開 | 制作過程・思考・見積内訳の発信、進め方の明文化 | 比較検討を丁寧に行う層 | 中(継続発信が必要) |
| ③理念と本気度 | 創業の理由、覚悟が見える行動、一貫した発信 | 共感で選ぶ個人・小規模事業者 | 低〜中 |
| ④第三者の推薦 | 前職の上司・取引先・知人経営者からの推薦文 | 紹介文化が強い地域・業界 | 低(依頼するだけ) |
| ⑤小さな実績 | モニター案件・検証案件・自社実践の成果 | 事例を見て判断したい大半の層 | 中〜高(案件獲得が必要) |
法人は1年目でも、個人は「10年選手」かもしれない
最初に取り組むべきは①の棚卸しです。会社としての実績はゼロでも、あなた個人の経歴はゼロではありません。前職で何を何年担当し、どんな数字に関わり、どんな課題を解決してきたか。「法人の実績」と「個人の実績」を分けて書き出すと、載せられる信頼材料は想像以上に見つかります。「創業1年目の会社」ではなく「この分野の実務15年目の専門家が立ち上げた会社」と見せられるかどうかで、第一印象は大きく変わり得ます。
- この事業に関わる実務を、通算で何年やってきたか?
- 関わった案件数・扱った金額・改善した数値など、数えられるものは何か?
- 同業の平均的な担当者が知らないことを、自分は何を知っているか?
創業期にしか使えない「挑戦者の見せ方」——共感される語り方
実績が揃った企業は「完成された姿」でしか語れません。一方、創業期は「挑戦の途中」を進行形で見せられる唯一の時期です。人は完成品よりも、努力の過程が見える相手を応援したくなる傾向があります。クラウドファンディングで実績のない挑戦者に支援が集まるのも、この心理が働くからです。完成を装うのではなく、挑戦者として堂々と語ることが、創業期の合理的な戦略になります。
語りの型:「原体験→決意→現在地」の3部構成
共感される自己紹介・会社紹介には型があります。おすすめは次の3部構成です。(1)原体験——なぜこの課題を放っておけないのか、自分が見た現場や悔しさを具体的に語る。(2)決意——だから何を実現するために創業したのかを一文で言い切る。(3)現在地——いまどこまで来ていて、何に挑戦中かを正直に開示する。この型は、実績の代わりに「動機の強さ」と「一貫性」で誠実さを証明する構造になっています。
- 弱みを隠さない:「できないこと」を明示すると、「できること」の主張に信憑性が生まれる
- 進行形で語る:「〜を目指して検証中です」は、創業期だけが使える誠実な訴求
- 相手を巻き込む:「最初のお客様として一緒に事例を作ってほしい」という誘いは、挑戦者にしか言えない
正直さは武器ですが、何でも開示すればよいわけではありません。「資金が尽きそう」「他の案件がない」など、納品継続性への不安を煽る開示は逆効果です。開示してよいのは「挑戦の途中である事実」、開示すべきでないのは「事業の存続リスク」。この線引きを守ることで、正直さが信頼に変わります。
プロセス公開で信頼を積み上げる——「実績がなくても発信できる」の実務
信頼材料②「プロセスの公開」は、実績ゼロ期に最も再現性高く積み上げられる方法です。仕事の成果を見せられないなら、仕事の「進め方」と「考え方」を見せればよいのです。思考の質が伝われば、それ自体が能力の証明になります。
当機構には「実績がないので発信するネタがありません」という相談が非常に多く寄せられます。しかし話を聞くと、自社サービスの設計過程、価格を決めた理由、失敗した検証など、発信素材は山ほど眠っています。実績ができてから発信するのではなく、実績を作る過程そのものが創業期最大の発信素材です。
何を・どこで公開するか
| 公開する内容 | 信頼への効き方 | 向いている場所 |
|---|---|---|
| 仕事の進め方(工程・チェックリスト) | 段取りの良さ=能力の証明になる | 自社サイトのサービスページ |
| 見積・料金の内訳と根拠 | 「ぼったくられない」安心感を生む | 料金ページ・商談資料 |
| 専門知識の解説記事 | 検索・AI経由の接点+専門性の証明 | ブログ・コラム |
| 自社実践の途中経過(数字込み) | 進行形の挑戦が共感と注目を生む | SNS・ニュースレター |
| 失敗と学びの共有 | 誠実さの証明。同業と差がつきやすい | SNS・ブログ |
ポイントは、媒体を増やしすぎないことです。創業期は時間が最も貴重な資源のため、「自社サイトに資産として残る記事」+「SNSひとつ」の2点に絞り、週1回でも継続できる体制を優先しましょう。3ヶ月続いた発信の蓄積は、それ自体が「継続力」という誠実さの証明にもなります。
やってはいけない誇張——景表法・経歴詐称のNGライン
実績がない焦りから、つい表現を「盛って」しまうのが創業期の最大の落とし穴です。しかし誇張は、景品表示法の優良誤認表示に該当し得るだけでなく、発覚した瞬間に積み上げた信頼が一度に崩れます。実績ゼロ期の誇張は、リターンに対してリスクが大きすぎる賭けです。よくあるNG表現と言い換えを整理します。
| NG表現の例 | 何が問題か | 誠実な言い換え例 |
|---|---|---|
| 「実績多数」「豊富な実績」(実態なし) | 優良誤認表示のおそれ(景表法5条) | 「創業◯ヶ月・支援◯件」と事実を明記 |
| 「顧客満足度98%」(根拠なし) | 合理的根拠のない数値は不当表示のおそれ | 調査概要(母数・時期・方法)を示せる場合のみ記載 |
| 「大手◯◯社と取引実績あり」(前職の実績) | 法人実績と誤認させる表示。経歴詐称と受け取られ得る | 「代表は前職で◯◯社案件を担当」と主体を明記 |
| 「必ず成果が出ます」「100%保証」 | 断定的・保証的表現。成果は保証できない | 「〜しやすい傾向」「〜を目指して伴走します」 |
| 「業界No.1」「地域最安値」(根拠なし) | No.1表示は客観的調査の裏付けが必須 | 裏付けがなければ使わない |
- 主体を明記する:「当社の実績」ではなく「代表が前職◯◯社で担当した業務」と書く
- 守秘義務を確認する:前職の顧客名・数値は、公開可否を必ず確認してから使う
- 役割を正確に書く:チームでの成果を単独の成果のように書かない(「担当」「主導」「参画」を使い分ける)
逆説的ですが、「創業したばかりで法人実績はまだ3件です」と正直に書くこと自体が、誠実さの強い証明になります。盛った表現で埋め尽くされた競合サイトの中では、正直な開示はむしろ目立ちます。
最初の3件を実績化する手順【5ステップ】
信頼材料の中で最終的に最も強いのは、やはり⑤「小さな実績」です。目標は「3件」。事例が1件だと偶然に見えますが、3件並ぶと「再現性がある」という印象に変わりやすいためです。最初の3件を意図的に作り、確実に「実績」という資産に変換する手順を解説します。
知人の経営者、前職のつながり、地域の商工会議所などから、「成果を出しやすく、事例公開に協力的な相手」を選びます。狙い目は、課題が明確で規模が小さく、意思決定が速い事業者です。誰でもよいわけではなく、「事例として語ったときに次の顧客が自分を重ねられる相手」を選ぶのが重要です。
「無料でやります」ではなく、正規価格を提示したうえでモニター割引を適用します(例:正規30万円→モニター価格15万円)。無償や大幅割引にする場合は、対価として「事例としての公開許可」「実名または社名でのお客様の声」「完了後の推薦文」を必ず条件に含め、口頭ではなく書面(メールで可)で合意しておきます。
事例の価値は記録で決まります。着手前の状態(数値・課題)、途中の判断と施策、完了後の変化を必ず記録します。「問い合わせが月2件→8件」のようなBefore/Afterの数値が1つあるだけで、事例の説得力は大きく変わります。数値が取れない案件でも、顧客の生の言葉(依頼前の不安→依頼後の感想)を記録しておきます。
「課題→提案→実行→結果→顧客の声」の型で1件ずつ事例ページを作ります。掲載前に必ず先方の確認を取り、実名・社名・写真の可否を明確にします。イニシャル掲載でも、業種・規模・地域が書ければ十分機能します。同時に、次の商談で使える1枚もの(事例サマリー)にもまとめておくと営業資料が強化されます。
モニター価格の出口をあらかじめ決めておきます。「先着3社まで」と最初から明示しておけば、値上げの説明も不要で、希少性の訴求にもなります。3件の事例が揃った時点でサイト・営業資料を更新し、以後の商談は「事例3件+正規価格」で臨みます。ここからが本当のスタートです。
数値シミュレーション:モニター3件は「投資」として割に合うのか?
モニター割引は売上を削る施策のため、「本当に割に合うのか」を数字で確認しておきましょう。以下はサービス単価30万円の事業者を想定した試算です(例:数値はすべて仮定のモデルケースです)。
| 項目 | 実績ゼロのまま営業 | モニター3件を実績化後 |
|---|---|---|
| 月間商談数 | 10件 | 10件 |
| 受注率(例) | 10%(実績を示せず失注が多い) | 25%(事例3件で不安を解消) |
| 月間受注数 | 1.0件 | 2.5件 |
| 月間売上(単価30万円) | 30万円 | 75万円 |
| 月間増収 | — | +45万円 |
モニター施策の「投資額」は、正規30万円→15万円の割引×3件=45万円分の値引きです。上記の例では、実績化後の増収が月45万円のため、約1ヶ月で回収できる計算になります。受注率の改善幅は事業により異なりますが、「割引額=実績という資産への投資」と捉えると、意思決定がしやすくなります。
45万円
モニター割引の総投資額(例)
3件
獲得できる公開事例
+45万円
実績化後の月間増収(例)
約1ヶ月
投資回収期間の目安(例)
回収期間の目安 = モニター割引の総額 ÷(実績化後の月間売上 − 実績化前の月間売上)。自社の商談数・受注率・単価を当てはめて試算してみてください。受注率が数ポイント改善するだけでも、割引額は十分回収し得ることが多いはずです。
信頼材料を「置く場所」——作っただけでは伝わらない
最後に見落とされがちなポイントです。信頼材料は、作っただけでは機能しません。顧客が「不安を感じる瞬間」に、その不安を打ち消す材料が目に入る配置になっていて初めて効果を発揮します。具体的には次の配置が基本です。
- 料金ページの直下に事例・お客様の声を置く(価格を見た直後が最も不安が高まる瞬間)
- 問い合わせフォームの手前に代表の顔写真・経歴・理念を置く(最後のひと押しは「人」への信頼)
- 商談資料の冒頭に経歴と推薦文を置く(商談は最初の5分の印象が支配的になりやすい)
- SNSプロフィールに「原体験→決意→現在地」を凝縮する(発信を見た人が最初に確認する場所)
信頼材料の制作と配置はセットです。5つの材料が揃ってきたら、顧客が接触する順番(SNS→サイト→商談)に沿って、どの瞬間にどの材料を見せるかを一度設計し直してみてください。
よくある質問(FAQ)
- 実績が本当にゼロでも受注できますか?
-
可能性は十分あります。発注者の中には、価格・スピード・熱意・相性を重視して創業期の事業者を選ぶ層が一定数存在します。ただし「実績で選ぶ層」に正面から挑むのは不利なため、経歴・プロセス公開・推薦などの代替材料を揃えたうえで、実績以外を重視する層に絞ってアプローチするのが現実的です。
- モニター案件は無料にすべきですか?
-
原則として無料は推奨しません。無料の依頼は顧客側の本気度が下がり、成果も事例の質も落ちやすいためです。正規価格を提示したうえでのモニター割引(例:半額)とし、対価として事例公開許可・お客様の声・推薦文を書面で合意する形が、双方にとって健全です。
- 前職の実績はどこまで書いてよいですか?
-
「代表が前職で担当した」と主体を明記すれば、経験として記載できます。ただし、前職の守秘義務に触れる顧客名・内部数値は公開許可がない限り書けません。また、法人としての取引実績のように誤認させる書き方は避けてください。「担当」「主導」「参画」など、役割を正確に表す言葉を使い分けるのが安全です。
- お客様の声は知人からもらってもよいですか?
-
実際にサービスを提供し、対価や条件の合意があった相手であれば、知人でも問題ありません。重要なのは「本当にサービスを受けた人の、事実に基づく感想」であることです。サービス提供の実態がないのに感想だけを書いてもらう行為は、事実と異なる表示となり景表法上も問題になり得るため、絶対に避けてください。
- 実績ができるまで、価格はずっと下げておくべきですか?
-
いいえ。低価格を続けると「安いから頼む」顧客が集まり、消耗しやすくなります。割引は「先着3社のモニター」のように件数と出口を最初から決めて実施し、事例が揃った時点で正規価格に戻すのが原則です。安さではなく、信頼材料で選ばれる状態への移行を最初から設計しておきましょう。
あわせて読みたい



まとめ:実績ゼロは「信頼を設計していない」だけ
信頼は実績だけで作られるものではありません。①経歴・専門性の棚卸し、②プロセスの公開、③理念と本気度の言語化、④第三者の推薦、⑤モニターによる小さな実績——この5つの材料を揃え、顧客が不安を感じる瞬間に届く場所へ配置すれば、実績ゼロでも選ばれる状態は設計できます。そして「挑戦の途中を進行形で語れる」のは創業期だけの特権です。誇張に逃げず、正直さを武器に、まずは個人の経歴の棚卸しと最初のモニター1件から始めてみてください。
「自社の場合、どの信頼材料から揃えるべきか」「モニター条件をどう設計すればよいか」など、創業期の集客・信頼づくりに関するご相談は、当機構が無料で承っています。あなたの事業の状況に合わせて、優先順位から一緒に整理します。
一般社団法人 中小企業集客支援機構(本部:大阪市都島区)
「埋もれた価値を、社会の力へ」を理念に、中小企業・スタートアップのマーケティングを支援する非営利団体です。広告運用(Google/Meta/LINE)、SEO・コンテンツマーケティング、クラウドファンディング支援、EC・D2C支援を主な領域とし、全国の事業者の集客を伴走支援しています。
本記事は、当機構に寄せられる相談事例と支援現場での知見をもとに構成しています。制度・各社サービスの仕様は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトをご確認ください。

